結論から書きますと…
論文を書こうと思うなら、他人の論文を査読(っぽいことを)してからの方が良い(に違いない)。
というお話。
2020年に入ってから、なんと査読の依頼が某薬系学会誌から届きました。
査読は初の体験です。そして、お受けするかどうか正直迷いました。
理由は次の通りです。
- 医療薬学会が新しい認定制度を準備中で、ゆくゆくは薬局や病院の施設基準として「論文(筆頭)」や「学会発表(筆頭)」が設定される可能性がある
- 上記が加算の算定要件として制度化された場合、投稿者の研究実績に関わるだけでなく、施設の経営にも直結する可能性がある。
- 上記が原因で業務命令として論文を投稿したのに掲載拒否になったら、投稿者の気持ちを考えるといたたまれない(職場での風当たりとか…)。
でも、これらに気兼ねしていたら誰も査読者なんて出来ない(引き受けられない)ワケで。
ある意味、心を鬼にして、その代わり可能な限り受理されるように問題点を見つけて虱潰しに解決出来るようお手伝いしようと決め、引き受けました。
私のお師匠様にあたるW先生に、査読をする時のアドバイスを求めましたら、次のように教えて頂けました。
「自分は、『サドクシャだけに、S(サド)になれ』と教わったよ」
とのこと。重箱の隅を突くように、とにかく気になるところは指摘することで、最終的により良い論文になる手助けが出来る…のだと解釈しました。
もちろんですが…はい、ココ、大事です。
査読する以上、責任を持ってコメントしています。
どういうことかと言うと、コメント1つ1つに裏取りをしているということです。
例えば…
- 引用がある部分は、著者・タイトルが示された引用文献を必ず開いて、該当箇所を見つけ、数値等が正しいかどうか確認
- 単語について指摘する場合は、それについて検索をかけ、指摘が誤りでないことを確認
例1)「調剤薬局」「保険薬局」と一見して表記が揺れている場合に、それぞれの定義を調べる
例2)関東地方を対象としたアンケート調査で、関東以外と思われる県が結果にある場合、「関東地方」の定義を調べる
(調べた結果、指摘内容が誤りだとすれば、もちろん指摘から外します)
ということです。そう、指摘を1つ行うのも大変なんです。
制度全体について関連資料を10以上探し出し、たった2~3行で指摘した箇所もありました。
投稿者は、数ヶ月、下手すると年単位で時間をかけて論文を作成し投稿するわけですが、査読者はそれが正しい内容かどうかを、学会によって異なりますが2週間とか1~2ヶ月未満で確認してコメントするわけです。
私が今論文を投稿している先は、「査読結果を伝えるのにおよそ3ヶ月程度」と返信がありました。
冒頭に出てきた医療薬学会ですと、1ヶ月を待たずに返信があったりしますから(最近投稿してないので、よく覚えてません)多分査読期間は2週間とかじゃないでしょうか。
そして、査読した論文が受理されても掲載拒否となっても、査読者は何も影響を受けません(多分)。報酬なんて微塵もありません(笑)。査読をしたら自分の論文が通りやすくなる…なんて事があったら、科学的信憑性なんて吹っ飛びますから、これも有りえません。
なので、査読者は完全ボランティア状態なんですね。でも、投稿者の研究者人生の一部を背負っているというか…。このプレッシャーは、たまらんですよ。
でも、報酬はなくても得られるものがあるんです。
それは、「査読者の視点」です。
自分の論文を書く時、自分では査読しているつもりでも、何十回と読んでいると読み飛ばしてしまう箇所がどうしても出てきます。そして、読んでいるうちに自分の中で定説化してしまって、「それは事実なのか?」という視点が抜ける。
これを修正できる、とても得難い経験です。
何となく自分では修正すべき箇所がなくなった気がして投稿するわけですが、サマリーから図表まで、同じモチベーションで出来るようになったのはとても大きい収穫でした。とは言え、新米の私にできる事と言えば
- 自分の専門分野で知りうることのうち、それが正しいかどうか
- 当たり前のこととして書かれている内容が事実なのか
- 日本語としてアリなのかどうか
くらいなんですけど。
ただ、これが出来る状態になった後となる前では、書き上がったものに違いが出るという自信もあります。それだけ凄い体験でした。
でも、論文となったものを査読するのは、正直難しいですよね…だって、論文として存在しているということは、(多くが)既に査読でOKが出た状態のものなので。
過去に論文になったもののうち、査読を受ける前の原稿をUPするのは、著作権に引っかかるのでしょうか^^;
引っかからなかったら、ここでUPすることで皆さんの練習材料にできるんですが。
そして、査読を行う上で最初に読んで欲しい資料を見つけました。
Googleで「論文 査読 方法」として検索してください。
「論文査読のポイント - J-Stage」という検索結果が見つかれば、大当たりです(いえ、見つかるんですが)。
神戸薬科大学 薬学臨床教育センター(当時)の波多江 崇先生が執筆された原稿を見ることで、何に注目して査読すればよいかが分かるようになります。